つい先日の話ですが、9月2日は我が家の結婚記念日でした。
しかもなんと記念すべき10年目。
バブル華やかなりし1990年代には「結婚10周年に10石のダイヤモンドを贈る」なんてCMが流行ったこともありましたが、花ならぬ石より団子の私にとって一番嬉しいのはおいしいものを食べること。
さぁどこにしようと迷っていると、夫から「すき焼きはどう?」という提案。
そういえば婚姻届けを出したあの日もすき焼きだったわ!
二人そろって役所に書類を提出し受付の方に「おめでとうございます」とお祝いの言葉を頂いたその足で、よく見かけるけど入ったことがなかった木曽路ですき焼き鍋をつつきながら、仲良く一緒に食べるご飯はいいなぁなんて思ったんでした。
10年ってほんとうにあっという間ですね。
そんなわけで今年は奥州市水沢横町の「ささ忠」さんでお祝いランチです。田舎の夜は真っ暗なので遠出するならディナーはちょっとね…。
さて、そのささ忠さん。明治38年創業、昭和27年から精肉専門店を営む老舗でして、すき焼き、しゃぶしゃぶ、と書かれた入口の右手にある階段を上がるとなんとも古風な造りの店内。そのすべてが個室。
赤い廊下に市松模様の襖がずらりと並ぶ厳かな雰囲気は、外食が接待やお祝いなど特別な時のものであった時代の名残を感じさせます。
なんかこうすごいとこ来ちゃったぞ?!って感じ。
続けて襖を開けて思わずわぁ!と声をあげたのは時を経た風格を感じさせる室内。
そこそこいい年齢の私でもちょっとドキドキしますね。整然と整えられたお部屋が素敵。
室内は和室ながら現代風に座卓式。足の悪い方にも無理がないようにとの心配りだそうです。
そういえば来るときに上ってきた階段にも昇降機がついていました。高齢の方が多い地方都市ではこうした配慮があるかないかは結構重要。
食事の前に飲み物を注文して待つことしばし。
いよいよ主役、すき焼きのお肉が登場。
これがまた綺麗なサシが入って神々しいこと。食べる前から絶対おいしいお肉だ…と見惚れてしまいます。いい…とてもいい…。
牛肉って見るからにごちそう感にあふれてていますよね…ため息でちゃう。
割り下は少し変わっていて、特製スープと秘伝のたれをお好みで合わせて頂くのだとか。
最初はお店の方がお作りして下さるとのことで、スープを入れたお鍋に手際よく野菜を並べられ、輝くようなお肉が一枚一枚丁寧に乗せられていきます。
そこにさぁっと秘伝のたれをひと回し。良い香りが部屋の中いっぱいに広がります。
赤みがうっすら残る程度でひっくり返すのだと教わったところで、あとはごゆっくりと扉が閉められました。ここからは夫婦水入らずのすき焼きタイム。この時点でお腹はぐーぐー。ぐつぐつという響きが食欲をかきたてます。さぁ、いっただっきまーす!
火が通ったお肉をそ~っと箸でつまんで口に入れる。途端にんん~!と言葉にならない感動が押し寄せる。わわわ、なんでしょう。ただただひれ伏すしかないおいしさ。
ちなみに今回お願いしたのは「ささ忠特選牛」の特選すき焼きコース。箸で切れるほど柔らかいのに肉質がしっかりとし噛み締めるほどにじゅわ〜と旨さが広がります。すごい、おいしい、ああもうこれぞ至福。
おいしいね~なんて話していたのは最初の内で、食べることに集中するあまりだんだんと無言になっていくふたり。ほとんど「カニ食べてる?」って言われる静けさです。だってしょうがない。圧倒的な旨さの前では誰だってこうなるに決まってます。うん。
あらかた食べたところで締めのうどん。これがまた旨みを吸って旨いのなんの。すき焼きを考えた人は偉すぎる。そして締めのうどんを考えた人も偉すぎる。
野菜とお肉とたれの旨味をたっぷり吸ったうどんはコシが強くて食べ応えも満点。
最後の最後までお腹も心も満たされます。
店員さんの物腰も丁寧で随所におもてなしの心遣いがあり、特別な日にこちらにして良かったと改めて思いました。地元で長年商いをしているお店はこうしたところが嬉しいんですよね。
私が結婚したのは40歳を目前に控えた39歳の時。この先ずっと一人で生きていくほどの覚悟はないけど、誰かと暮らすなんて想像もつかないなぁとぼんやり思っていた矢先。彼氏ができたかと思えばとんとん拍子に話が進んで結婚の運びに。
縁があるときってこんなもんなんだなぁと、不思議な気持ちでいたあの日から10年目に食べたすき焼きは、こうやって二人で一緒に食べるご飯はいいなとやっぱり思う幸せの味でした。
〒023-0801 岩手県奥州市水沢横町205番地