岩手県一関市。猊鼻渓にほど近い古い街並みの中にある「パティスリーフジ」。有限会社冨士屋製菓の洋菓子部門として発足し、2014年11月にパティスリーフジ(pâtisserie fuji)としてリニューアル。現在ではフランス菓子を中心としたお菓子が並んでいます。

古い街並みにひときわ目を引く瀟洒なブティック。そのパティスリーフジで素晴らしいスペシャリテに出会いました。
スペシャリテはいわば店の顔。シェフの嗜好やお店の方向性を知る重要な手掛かりでもあり、初訪問では必ず買うことにしているのですが、大好きなチョコレートを使ったとあれば期待はなおさら。さっそくご紹介します。
モガドール

斬新なデザインが並ぶショーケースの中、実にシンプルな姿で並んでいたモガドール。やや赤みを帯びた褐色のグラサージュに小さく金箔が添えられているだけなんですが、人を誘うただならぬ存在感を漂わせており、これはもう持ち帰るしかない!とグッと心を掴まれました。

ナイフを入れて驚いたのはその触感。すっ…と、吸い込まれるような手触りに思わず声を上げました。グラサージュとムースの境を感じることなく一気にナイフが落ちていく。とろりとしたグラサージュの艶めかしいこと!
薄く敷かれたココア生地をミルクチョコレートのムースで包み、グラサージュを施したシンプルな構成。しかし驚くべきはその滑らかさ。舌に乗せるとしゅわっと溶け、ミルキーでフルーティーな香りに包まれます。
クーベルチュールは「マンジャリ」を使用。パッと鮮やかなベリー系の酸味に、これぞマダガスカル!と思わず口元が緩みました。
ムースの中にはマンジャリと相性の良いフランボワーズのピューレ。甘酸っぱいフランボワーズの香りがチョコレートに華を添え、エレガントで艶やかな美女を思わせます。
同店のFacebookにて、このガトーを作られた際のコメントを見つけましたのでご紹介します。
フルーティなアロマと酸味が魅力のショコラマンジャリと完熟したフランボワーズのピューレで仕上げたフルーティショコラのスペシャリテ。
カカオを加えシャープな苦味引出した上掛けのグラサージュショコラには深い赤みを加え、漆の様な色彩と艶に仕上げ、和の美を表現してみました。
外観、味ともに自分の好みをストレートに表現した代表作となれば嬉しいですね。
なんと、このなんとも言えぬ美しいグラサージュは「漆=和の美」を表現したものだったのですね。まさに漆塗りの器を見るような艶やかさ。
紅がひそむ深い褐色のグラサージュ、驚くようななめらかさ、口いっぱいに広がるフルーティーな香り。余計なものをそぎ落とし、チョコレートが持つ味わいを最大限に活かした直球の美味しさ。これをスペシャリテに持ってくる芯の強さを感じずにはいられません。
ケーキ好きはもちろん、根っからのショコラ好きに食べて頂きたい、と思わせる素晴らしいチョコレートケーキでした。いつかアントルメで頂きたいです!
※この記事は2019年に執筆したもののリライトとなります。